サービス業を「仕組み」と「ブランド」で強くする

はじめに

「担当の美容師さんが独立するので、私もお店を変えよう」…美容業界ではよく聞く話です。

お客様に支持されるスタッフがいることは素晴らしいことですが、経営の視点で見ると一つの課題も見えてきます。そのお客様は、その店のファンだったのでしょうか。それとも、そのスタッフ個人のファンだったのでしょうか。

 

大学院でサービス業を研究する中で、この問いに強い関心を持つようになりました。サービス業は日本のGDP・就業者数のいずれでも約7割を占める重要な産業です。一方で、目に見えない価値を扱うため、製造業とは異なる視点での経営支援が求められます。そこで、サービス業特有の支援について考えてみました。

 

「見えない現場」の可視化と仕組み化

サービス業では、価値は商品そのものではなく、スタッフの技術や接客を通し提供されます。そのため、品質が個人に依存しやすいという特徴があります。そして、美容・エステ業界では「個室型・プライベート型」のサービスが多いため、各スタッフの提供する技術や接客が、経営者から「見えない現場」になりがちです。技術や顧客満足度が個人に依存する「属人化」が起こると、品質のばらつきや顧客流出のリスクがありえます。

 

これを解決するのが「プロセスの可視化」による仕組み化です。例えば、個人の頭の中にあるカウンセリングのコツをヒアリングシートに落とし込む、または、施術や接客を撮影し、共有する方法もあります。技術や接客のポイントを可視化することで、一定の品質を再現しやすくなります。個人の感覚に頼らない仕組みを作ることで、現場が自然と回り、店舗として安定した成長が可能になります。

 

「思い付き」を卒業し、戦略的な「ブランド」へ

個人の技術や接客を仕組みとして共有し、店舗として一貫した価値を提供する。その価値こそが店舗のブランドです。実際には、集客や販促がその場の思いつきや流行で決められるケースも少なくありませんが、サロンが培ってきた技術や接客スタイル、顧客との関係性、店舗コンセプト…これらは、目には見えなくても重要な経営資産です。競合と差別化するための立派な「知的資産」ともいえます。こうした強みを意識的に蓄積し、ブランドとして育てることが、広告費に頼らない経営につながります。

 

おわりに

「担当者が変わっても、この店に通いたい」そう思っていただける状態をつくることが、サービス業の大きなテーマの一つです。

サービス業のオーナーは、日々の現場を回すだけでも孤独な戦いを強いられています。中小企業診断士の役割は、正しい経営理論をただ押し付けることではなく、その店が持つ独自の「技」や「らしさ」を言語化し、強みを守りながら組織を成長させていくことではないでしょうか。

「接客のプロ」が集まるサービス業が、その魅力を組織の強みに変え、「経営のプロ」としても持続的に輝けるよう、一番近い理解者として全力で伴走してまいります。

 

 

(栗原 直子)