環境に優しい経営

日本の事務所部門の'13年度二酸化炭素排出量は、'90年度の2倍増

ちょっと遡りますが、1992年ブラジル国際会議「地球サミット」で地球温暖化抑制を目指す「気候変動枠組み条約」が採択され、条約締結国200カ国地域余りが参加する「国際気候変動枠組み条約国会議(COP)」を95年から毎年開いてきました。97年京都COP3「京都議定書」により08年から12年の5カ年間の二酸化炭素(CO2)など温暖化ガス排出量を1990年比日米欧など先進国全体で5%削減することになり2005年に発効しました。2009年コペンハーゲンCOP15では「京都議定書」後10年間の削減目標等を決められず、201511月パリCOP212030年前後の削減目標を決める予定です。

日本ではCO2の排出量1990年度1,154.4百万トンから2013年度1,310.7百万トンへ12.8%増えています。企業はCO2排出量の環境負荷を減らすような環境に配慮した経営をすすめることが提唱されています。

日本のCO2排出量が部門別でどのくらいなのかをとらえてみましょう。事務所は「業務その他部門」(商業・サービス・事務所等)に含まれて集計がされています。システム開発業が含まれている「業務その他部門」のCOの排出量は、1990年度134百万トンから2013年度279百万トンへ2.08倍増えています。製造業が主な「産業部門」が減量している一方、「運輸部門」が9.1%増、「家庭部門」53.3%増と並んで増えています。日本全体から見ると、事務所が含まれる「業務その他部門」が出すCO2は、1990年度比較で一番増え2.08倍なので、抑制することが求められています。

事務所の環境経営事例

経営者の集まりで、システム開発業甲社長から「環境を大事にするという時代の要請に、システム開発業はどのように応えてゆくのでしょか」との質問を受けました。システム開発業ではパソコンを使って作業し、通信回線を通じてE-Mailで連絡などを行い、それほどエネルギーを使わないので、環境経営と言っても「何をしたらよいのでしょうか」との質問です。

システム開発業の形態は、外見は一般的な事務所です。一般的な事務所で行われていることや行えることを例として、甲社長に環境経営の初めの一歩をお話ししました。「紙・ごみ・電気」をより少なくすることが、「環境経営」を行う第一歩と。紙の生産には電気を使っているので、使う紙の量と紙のごみ量を減らせば、電気使用量が減ることになり環境に良いことなります。

次はシステム開発業乙の事例をお話ししました。これは事務所をお持ちの読者の方にも参考になると思います。

システム開発業乙の社長は、自社がどんな状態なのかを自分で見たり聞いたりしました。環境と言えば、身の回りが綺麗になっていて仕事がしやすい事なので、従業員に聞いてみると気になっていたことは、たくさんのゴミでした。ゴミを分別して見たところ、プリンターの印刷失敗のゴミよりも残業に使ったコンビニ弁当や飲料水ペットボトルが殆どでした。そこで、乙社長は従業員とゴミをどうしたら減らせるかを話ってみました。すると、古手の従業員丙から「ゴミを減らすことが環境経営なのか」との疑問が出て来ました。「どうしてだと、思いますか」と乙社長は丙に問いかけ、丙が自ら調べるようにしたそうです。システム開発業ですから、WEBで検索したら『環境経営の初歩は、「紙・ごみ・電気」を減らすこと』が出て来ました。丙は自分が調べた結果なので納得し、若手従業員に話していました。また、WEBでは「紙・ごみ・電気」は3年ぐらい後では種切れになるので、丙は会合で「原因を幅広く考えるべき」と言ったそうです。ここで大事なことは、システム開発業乙で古手従業員丙が納得して先頭を切って環境経営を始めたことです。

従業員たちが、具体的にどうすのかを話し合った結果は次のとおりです。

第一は、残業そのものを減らすことでした。これは丙が言い出したことです。

二つ目は、残業から出るゴミを減らすことでした。

第一の残業に使ったコンビニ弁当や飲料水ペットボトルは、残業そのものを減らせばよいので、皆で手分けして「なぜ残業が出てくるのか」を調べました。調べる点として、まずは、どのような場合残業が多いのかをとらえています。一つは、納期直前の追い込み残業が多いことです。ここで取った解決の仕方は、当たり前なことですが、「いかに、お客さまとの意見交換を密にするか」を実行することです。丙が先頭に立ったのでお客さまの協力が得られ、お互いのあいまいさを減らし、記録を残してお互いに確かめる事をはじめており、今は残業の縮小に結びつきはじめています。お客さまと記録を確認することで手戻りがなくなれば、残業が減るのではないかとの仮説です。

 もう一つは、プロジェクト開始の初めに「お客様の要求する仕様が出て来なかったり、あいまいなままに始めてしまう」ことがあって、後日にやり直しになってしまい、残業でこなす事がありました。「はじめ納期ありき」で「先行してできることから始める」ではやり直しのムダが出てしまうので、「お客さまから要求仕様が出てくるまで待つ」という当たり前なことを実行する事になりました。これは言うのは簡単ですが、若手が種々工夫していますが今でも苦心しているそうです。長い間の慣わしをなくすには、やり直しのムダにかかった費用をお客さまに提示して協力を求めるなどの努力を重ねています。乙社長は、さてどうなるかと注目しているところです。

 この二つの改善の仕方は、プロジェクト管理を事前に出てくる課題を改善する方向に変えることです。

電気代が減ったり、地元と知り合いになったのは良い副作用

残業を減らすと、電気使用量も減ってきています。乙社は、直に電力会社と契約しているので、電気使用量が減れば電気料金も減ってきています。しかし、ビルの一部を事務所として借りている事業所では、契約面で電気料金をどのように負担しているか、よく契約書をご覧になると良いでしょう。例えば、使用電力量は専有部分が電力計によるが、では共益部分はどのようになっているのか、この点よく確かめるべきです。この際、電力使用量と電気使用料金の関係と電気使用料金の計算方法を確かめられ、納得するようにしたらいかがでしょうか。このような基本を見直すことが、適切です。

乙社では、PCの起動は電力量を多めに使うことが分り、ちょっとした空き時間にはPCの電気は切らないなど、細かい操作を始めたところです。エアコンも、PCと同じで再起動には立ち上がりの電力量が大きいので昼休みなどはをエアコンをきるのは止めました。照明灯は、起動電力量が大きくないので、不必要な場所の照明は切るようにしています。ここでは総務担当がメーカーや電機商品販売店に問い合せるなどして、どう節電するかを具体的にしています。

一方、「残業から出るゴミを減らす」には如何したら良いのかも進めています。コンビニ弁当の代わりに仕出弁当や出前などの利活用はゴミが出ない仕方です。地元のお店と話をして、今では従業員の好みに合う弁当を作ってもらっています。このようなことから、乙社の従業員は地元の店主と話すことが増えて、飲み会などを行なうようになったそうです。まだ、仕事には結びついては居ませんが、地元のお店や商店街がどのようにITを使えるのか、どのような効果が期待されているのかを検討し始めたところです。

それと、乙社長は来年4月に電力小売が自由化されるので、今はいろいろと情報を集めているところです。

会議の紙資料は要らない

次は紙です。乙社ではコピー機の使う量から会議・打合せなど社内資料が多いことがわかりました。乙社長が会議に出る従業員の意見を聞いてみると、会議の資料は殆ど二度見ることがないことが分りました。「多分、二度は見ないだろう」と思っていても、このように意見を従業員から聞くことはいろいろ協力を得る点からは大切な事です。顧客に説明するときに使っているプロジェクターで投影した資料を参加者が見ることにしました。そして、会議資料の配布を止めました。意見を前もって聞いたこともあって、その後資料を要求する従業員はいなかったとのことです。配布資料がなくなり、システム開発業らしくなる効果も出てきました。

この方法は、結果の事実がどうなっているかを捉えて、その結果がどのような原因で生じたのかをつかんで、対策を立てて環境に優しい事業を進めている例です。この方式は、経営の他の場面でもよく使われています。例えば、製造業で「不良が出ている、どこの生産工程で出ているのか、どうして不良品が出ているのか、その不良発生原因に対策を立案し実行する」などです。このように考えると、環境経営は視点を環境保全に焦点をあわせたもので、特殊な方法ではありません。事前に丁寧に調べることで、従業員の理解と協力を得られることも同じです。

例としてあげたものは、ほとんど費用が掛かりませんでした。事実をとらえて工夫をしたので、従業員は環境経営を楽しんでいます。

いかがでしょうか、「環境にやさしい活動」を行なってみませんか。

参考:2015103日毎日新聞によると「2020年以降の温室効果ガス削減目標について147カ国・地域が出し、世界全体の排出量の9割を占める国の公約が出揃った。だが、各国目標を合計しても温暖化被害を避けるに必要な削減量には足りないとの指摘も出ている」とのことです。201512月仏・パリでCOP21COP/MOP11(国連気候変動枠組条約締約国会議第21回会合・京都議定書締約国会議第11回会合)が開催されますが、このCOP21で世界各国が地球温暖化防止に関する2020年以降の「新しい国際枠組み」を合意する予定です。年末へ向けた交渉が、さらなる削減量を加速できるかが課題です。

注:出典)温室効果ガスインベントリオフィス

注:環境に配慮した経営(環境省ホームページから引用)とは事業者の自発的な環境配慮の取組により、自らの環境負荷を削減するばかりでなく、例えば、製品の利用段階での環境負荷を低減したり、原料採掘における環境配慮を促すことに貢献します。また、新たなエコビジネスや環境技術の開発も、事業者の日々の研究成果によるものです。さらに、研究機関や教育機関が、環境に関する研究や環境教育を実施することも大切な取組です。このように環境配慮経営は、事業活動に伴う資源・エネルギー消費と環境負荷の発生をライフサイクル全体で抑制し、事業エリア内での環境負荷低減だけでなく、グリーン調達や環境配慮製品・サービスの提供等を通じて、持続可能な消費と生産を促進します。

                                                       中小企業診断士 窪田靖彦