あたらしい事業をどう生み出すのか

  「今日は昨日の続きではない、明日は今日の続きではない」と言われるように常に新しいことを出し続けなければ、企業は市場から退場することになります。「あの創造性の豊かだった企業が…」とのニュースを聴くとその通りです。

しかし、実際に新しい事業を始めてみようと思うと、むずかしさが分ります。今回の企業は、「新しい事業」を生み出すのに苦しんでいる最中です。

 独自の事業をやりたい

 B社は従業員50名を超える受託ソフトウェア開発業、創立15年目です。C社長は、発注会社の業績や方針によりB社の売上が左右されるため安定した自社の経営が難しく、自社独自の事業を展開することを考えていました。C社長は、一番「できる」と思うE幹部に”事業化”計画を作るよう話してみました。Eは社長の狙いを理解し、日常の仕事をこなしながら考え方を作りました。考え方は、目的、目標、行動計画などから成り立っており、目的は「広く顧客の問題を解決する製品・サービス・アプリケーション()を自社で創出し、事業展開することで自立する」こととし、主な目標は「今期、第一号を創出し開発する」としています。行動計画では事業の第一号は社内で公募することが提案されていました。

 よい案が出てこない

 この考え方は幹部会議に提案されました。

 「事業化計画の進め方が主で、中味がないな!」

 「公募はしたが、よい案がなかったらどうするの?」等の意見が出ました。

 これに対し、Eは次のように説明しました。

 「案が出ない場合、マーケティング()を行い、ターゲットをしぼる」

 これに対しては、

 「それこそ一般論だよ!」と辛辣な批判です。

 通常の会議では見られない緊張感は、受託ソフトウェア開発業の受身体質から抜け出せないもどかしさが背景にあります。「マーケティング・・・」は具体案がないことであり、出席者は肝心なことは先送りだと見たのです。

 外に目を向けたらどうでしょうか

 中小企業診断士は、予ねてからC社長に地方自治体の説明会への参加を促していました。説明会では、自治体自身が解決すべき多くの課題について、それぞれの解決する開発支援テーマ・必要な技術・製品開発等を示した「課題マップ」を公開しています。流れは「課題マップ」に沿って企業等が提案した解決案を自治体が審査し、合格した提案に助成するものです。「求める技術・製品開発の例示」には、”◎◎確認のシステム”と具体的です。ソフトウェア開発業には参考になる多くのシステムが上げられています。例えてみれば、問題を抱えている企業が、解決したい問題を明確にし、その問題を解決する課題も開示して、解決方法を求めていることと同じです。この中味は提案依頼書()によく似ています。

 説明会に出席したC社長は「課題マップ」を入手し、検討材料として幹部会議に示しました。C社長は、これは自社独自の新たな事業を見出す出発点に過ぎず、大事なのはこれからだと思っています。

 考えるには、きっかけが要ります

 受注・受託の小規模企業が独自製品やサービスを考えるとき、ぶつかるのは経験がないことや人材が育っていない、どうしたらよいのかノウハウがないことです。この事例のように「課題マップ」を社内に持ち込むことで、「こんなことが、求められているのか」、「ハードだけでなく、ソフトも求められているんだ」等がハッキリします。当然、公表された「課題マップ」には、多くの業者が高い関心を持つので、競争が激しいことは覚悟の上です。

 「鐘は叩けば鳴るが、叩かなければ何も起らない」

 会社も同じです。撞木である「課題マップ」により刺激を受けたB社は、具体的な検討が始まりました。そのきっかけになりそうです。

 社長の役割には、撞木を捜してきて、鐘を叩くことも含まれます。


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アプリケーション:Application=コンピュータの利用者がコンピュータ上で実行したい作業を実施する機能を直接的に有するソフトウェア

マーケティング:Marketing=需要者のニーズに創造的に適応するための市場活動;市場調査・製品計画・流通経路・広告やセールスパーソン活動などを含む

提案依頼書:RequestForProposal=情報システム導入等に際し、発注先に具体的な提案を依頼する文書  


ITコーディネーター 窪田 靖彦