2対6対2

 経営者の集まりのことです。昨年、ある会社に非常勤の取締役として入社された方が、話し始めました。この方はご自身も小規模ながら会社をされていますが、それほど従業員はいません。

「社長から助言して欲しいなどと言われましてね。何回か話すことがあって、それで彼の会社に非常勤ですが、入ることになったんですよ」

「それで、その会社はどうなの、なにか問題があったのかな」

「私が非常勤で入ってまだ1年も経っていませんが、どうも働く人とそうじゃない人がいるのが気になり始めているんですよ。これじゃ、この先どうなるのかと思っていて・・・」

「その会社、全部で何人ぐらいなの」

「そうですね、30人くらいかな。よく動く人もいますよ。でも、一方では何をしているのか、成果の上がらない人もいるんで、困っているのです・・・」

「どうでしょうか、あそこの白板に名前は伏せて、だれがどうだという具合に書いてもらうと、分かりやすいと思いますが・・・」

1.法則どおりの従業員の構成

 名前の代わりに、年齢と役割そして働き具合をABCと分けて、書き始めました。それを見ていた一人の経営者の方が言いだしました。

「あれ、なんか法則どおりだな、その会社の従業員は・・・」

「法則どおりと言われましたが、それは・・・なんでしょうか」

「エーと・・・2対6対2の法則とか言ったかな、ねえ、そうですよね」

 中小企業診断士の方に顔を向けて言われるので、説明しました。

「人が集まると、2割ができる人で、6割がほどほどの平均的な人、残りの2割がまあできない人になるといわれています。しかし、これは経験から導き出したもので、学者が唱えたものではないのです。よく似ているイタリアの学者が唱えたパレートの法則とは違うと言われていますよ」

 白板を見ると、大体ですが2対6対2の割合に見事になっています。

「と言うことは、その会社の従業員は平均的な構成だということですかね」

「そのとおりですね。特に良いとか、また、悪いとか言えないと思います」

 経営者の一人が計算していましたが、メモを見ながら言いだしました。

「そうですね、うちでも似たり寄ったりで同じような感じですよ」

「それじゃ、如何したらよいのかな・・・。今のままじゃ、業績が心配です」

 2対6対2は、どこの会社でもだいたいが同じような構成です。それでは、どうしたら良いのかが、話題になりました。

2.では、どうするのか

「うちでやってきたことを参考に話すと、誰でも優れた点とそうでもないことがありますから、その優れた点を見つけました。そして優れた点を伸ばすように本人に話しかけていますよ」

「そうですね。例えば仕事はまあまあですが、一方では気配りのよい人は、困っている人に一声かける等の良い点がありますから・・・」

「そのとおりですよ。会議で質問されて答えに詰まった人の代わりに話を引き取るなど、そう言う人は空気を感じ取れますからね」

「そうなのです。人は一人づつ得意なことを持っています。上に立つ人は、人は誰でも得意なことを持っていることに気が付かねばなりません。そうですね、何かと鋏は使いよう、との諺があるくらいですから」

 さらに、どうするのが良いのか、そちらの方向に話題が代わりました。

「そうですね、誰でも良いところがあるから、それを伸ばしたら良くなると思っていて、半期毎の面談で本人と話すようにしていますよ」

「それも良いやり方ですね」

「うちでは、従業員全員でMVPを決めて表彰しているのですが。」

「それも素晴らしいと思いますね。MVPは全社で一人というような感じがあるので、MIPも加えたらどうでしょうか」

 皆さん、MIPが何のことか分らないようなので、中小企業診断士がちょっとMVPとの違いを説明しました。MVPは、MostValuablePlayerの略で最高殊勲選手です。MIPはMostImprovedPlayerの略で最も進歩した選手のことです。MIPは、日本のプロ野球ではありません。

「それは、面白い方法ですね。どうでしょう、野球に倣って月間MVPは?」

「そうですね、月間MVPはある程度人がいるところでは良いかもしれませんね。年間で12人ですから、皆がMVPになる機会があるのですから」

 段々話しが熱を帯びてきて、話が次々と出てきました。

3.習慣の徹底、方針実現を加速させる

「普通のことにも当てはまりますよ」

「どのようなことですかね」

[電話を受けた人が、キチンと内容を書いて、本人に必ず伝言することが当てはまりますよ」

「そうですね、メモに書いてあっても、本人が外に出てしまっている時、その、侭にしておかないで気が付いたら直ぐに電話なりメールで伝えれば、お客様に本人から連絡がいくのでよいとか」

「会社の方針を浸透するにも有効ですね、どうでしょうか」

「そうですね、うちでは新製品開発という会社の方針を分ってもらうために、発表会を行っています。これは、世間の動きが早いので新しい品物を作り続けないと市場から飽きられてしまうと先生から助言があったことからです。2カ月に1度くらい新規商品の発表会をやっています。」

「どうですか、褒めかたは」

「うちは、今までは、最高によい案だけ、表彰していましたが、・・・・・・」

「そうですね。新規製品の開発や新規顧客の開拓等に、大相撲を参考にして殊勲・敢闘・技能のような3賞を設けたりするとよいかもしれませんよ」

「それは楽しそうで、雰囲気がよくなりそうですね」

4.皆の力を集める

 この日の会合は、アイディアが出ました。

 まとめてみますと、①誰でも良い点があるので、そこを伸ばすのが経営者の役割です。②人は良い点を褒められると、人はやる気や意欲が出てきます。③褒める回数と機会を多くして、皆が表彰されると良いです。④会社の方針等を浸透するように表彰することも良いです。

 どうでしょうか、皆さんのところでも、従業員の力が発揮できるようにされたらと思います。

中小企業診断士 窪田靖彦

 

注:パレートの法則は、伊国経済学者ヴィルフレド・パレートが発見しました。経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという理論です。例えば、売上の80%は顧客の20%から頂いているというものです。80:20の法則やばらつきの法則ともいわれています。