“新事業”や“新製品”を出し続ける

商店と商店街はどうなってきたのか

 

 当所は、私鉄2路線が交差している駅から500m程度のところにあります。先日、2人の経営者が来られて、相談が終わり、「商店などがどう変わって来たのか」に雑談の花が咲きました。駅までの間で閉店したのは、数えてみると、すし屋4店、米店3店、豆腐店2店、金物店2店、蕎麦屋1店、床屋1店、1店しかなかった乾物屋、花屋、パン屋、洋品店、和菓子店、煎餅屋、果物屋です。一方、開店は調剤薬局とコンビニエンスストアが3店、ラーメン屋2店、ピザ屋1店、カレー屋1店です。駅近くにスーパー・マーケットが2店できて、多くの日用品の買い物客を吸収しています。商店等は閉店が開店より多く、商店の跡は住宅となり、商店街は虫食い状態で消えかかっています。

 商店が無くなっていることに我慢できない金属加工業の経営者から、提案がありました。

「商店が無くなり、商店街がだんだん成り立たなくなってきて、我々製造業だって危ないと思いますよ。”経営革新計画”を作る会を、また、開きましょうよ。こんな状況をなんとかして、乗り切って行きたいと思いますので・・・」 

 

従業員は実際どうなのか

 

 やがて、経営者と”新事業”注を産み出す勉強会を開くことになりました。WEBを使って知り合いを誘ったりするために、どのように進めるのかチラシを作りました。その中で、最初はSWOT分析を使って”新事業”の種を探し出すこともお知らせておきました。集まった5人の規模は様ざまで3人から70人程度ですが、同業の経営者がいないので本音を話すことができます。

 中小企業診断士は、第一回のSWOT分析とはどのような中身なのかを説明し、次回までには”新事業”を従業員と話し合うことを提案しました。

「皆さん、SWOT分析を使って”新事業”を考え出すため、従業員の方々と検討してみてください。この目的は、2つあります。ひとつは当然なことですが、”新事業”を出すことです。案をたくさん出すためには、従業員から出てきた案には直ぐ否定しないで下さい。まずは”新事業”発表の場と考えると、たくさん出てきます。二つ目は、従業員の方々それぞれが”新事業”を産み出すことにどのような姿勢をとるのかをつかむことです。積極的な人、そうでもない人、いろいろな方が居ます。事実としてそのことををつかんで、これからのことを考えるときに参考になります」

「そうなんです、この会合ではSWOT分析を使うことがチラシで分かっていたので、当社の中で試してみました。すると、今、言われました通り、”なんでそんなことするのか、面倒だ”と言う者が出てきました。一方では”そりゃ、面白い、やりましょう”と言って、一緒に考える者も出てきました。従業員が何を考えているのか分かりましたよ」

 T社長は、SWOT分析を行ったおかげで従業員の態度が分かってきたと話します。

 

従業員と言っても、いろいろです

 

 多くの従業員は、今毎日行っている仕事に慣れています。新しいことは、一から始めなければならないので、嫌だと言う人が出てきます。いくら、社長が企業は社会などの変化に応じなければ継続しないと一般論を言ってみて、実際に従業員が賛成し変化に応じるように行動するかと言われれば、そうは簡単ではありません。しかし、このようなことはよくあることです。

「T社長の話では、”なんでそんなことするのか、面倒だ”と”そりゃ、面白い。やりましょう”と、2つに分かれました。”なんでそんなことするのか、面倒だ”の従業員は、現在の仕事ぶりはどうでしょうか」

「そうですね、今の仕事をよくやる人も含まれていると思います・・・」

「そうですね、今の仕事をやりきることは大切ですね。加えて、新しい仕事を見つけ出すのは、大変なことです。両方とも大事なことをハッキリとしておきましょう」

「では、・・・。どうしたらいいのか」

 すると、約50人規模のS社長が、言い出しました。

「人は誰でも得意なことと、そうでもないことがあります。このように、従業員がどんな態度を取るのか、何が得意なのか、その事実をつかむことが経営者の役割だと思います。そして、人をどう活かすのかを考えて、活躍できる場を設けています」

 S社長が言うように、従業員はいろいろな考えを持つ人から成り立っているのは当然です。この中でどうやって”新事業”や”新製品”を産み出すようにして行くのかが、課題です。社内で”新事業”や”新製品”の検討を始めてみると、”なんでそんなことするのか、面倒だ”と言っていた従業員も気になりますから、途中から参加もできるような工夫も要ります。途中から参加できる方式と言っても、当たり前ですが、参加できる期限を設けます。踏ん切りを付けるようにします。

 

どうやって”新事業”を考えるのか

 

 進め方自体をどう決めるのかは、企業が出来てからどの程度経っているのか、従業員の人数と力量はどのくらいか、社長自身がどのように進めようと考えているのか、等の要素を見て決めたらと思います。次は、事例として話してみたものです。

 社長自身で考える仕方もあります。例えば、後継者として引き継いで間もない場合、温めてきた”新事業”を手掛けることが当てはまります。経営者ですから、”新事業”の構想を温めていることは、当然なことです。後継者は、新旧の従業員からその力量がどの程度なのか、瀬踏みされています。瀬踏みへの後継者からの答えです。

 社長が日ごろから従業員の考えと行動を見て、力量がある従業員を集めて”新事業”を検討し始める仕方もあります。これには”新事業”を進めるには、従業員から選抜してでも行うと言う社長の強い思いが表面に出てきます。

 従業員の力量が増えて、その力を結集して”新事業”を検討したい場合は、社内に公募して意欲のある者を集める仕方もあります。企業の規模が大きくなると、常に”新事業”を産み出し続ける刺激がないと、大企業病になってしまいます。大企業病にならない仕方です。

 

“新事業”を生み続けないとどうなる

 

 この会合のきっかけは、駅までの間で商店が閉店に追い込まれてきた事実を知った経営者が言い出したことです。閉店となった商店は、殆どが夫婦経営でしたが、何店かは従業員が数人働いていました。それら夫婦や従業員はどうなってしまったのか分かりません。このように窮状に追い込まれてどこかに行ってしまった人たちが居ることも事実です。窮状に追い込まれた経営者たちの中で借金をしていれば、連帯保証を金融機関から取られており、会社が倒産にでもなれば自分の資産はとられてしまうことになりかねません。。このように「どうなってしまうのか」と想定することも大事なことです。

 経営者は、常に先を見ながら新事業を開発し、一方では今のことも行わなければならないのです。

 

 

中小企業診断士 窪田靖彦

 

注:中小企業新事業活動促進法による新事業活動は次の4に分類し、①新製品の開発又は生産、②新役務の開発又は提供、③商品の新たな生産又は販売の方式の導入、④役務の新たな提供の方式の導入、その他の新たな事業活動としています。