数字や数量で話すと分かりやすい

 2ヶ月に1回程度開く、色々な業種の経営者の集まりでのことです。販売業のM社長が、某業界団体の総会を途中から抜け出して顔を出しました。既に、建築工務店や運輸業、紙工業、人材派遣業が集まっているところに入ってきました。M社長は都県に複数の店舗を展開しており、今晩集まった経営者の中では規模が大きめの会社です。

 

考えをまとめるにも、根拠が要る

 

 皆さん、いつもの様に先回から今回の間に起きた問題を話しおり、やがてM社長の番になりました。

「皆さんご存知のように、家電業界は販売競争が激しいのは今に始まったのでなく、ますます激しさが増しています。その中で、今の分野に付け加えて、新たな分野に数年前から出ることを検討し始めています」

「よく新たな分野に入ることに決断がつきましたね」

「従業員は今の仕事に慣れていますから、新たな仕事はどうもという感じです」

「それは、そうでしょうが、よくMさんは踏み切りましたね」

「そうだよな、従業員はどうしても今の業界に慣れているから、このままで何とか頑張ろうとなるよ。でも、Mさんは思い切りますね」

「そのためにはですね、従業員には業界の過去からの推移、これからの見通しを公表されている表や図で説明しました。今のままでは先行きはどうもと…」

「どうですか、従業員の姿勢は。賛成しましたか」

「そう簡単ではありませんよ。そのためには準備をしました。従業員には、具体的に業界市場規模は◎兆円前後で、ややこのところ伸びが出ていないという数字で表してみせました」

「従業員の反応は、どうでしたか」

「従業員は、数字がここへ来て伸びが小さくなっていることに驚いて、ちょっと考えが変わってきたのかな。これが潮目の変わり目だったかもしれません」

 新たに参入する業界は、ここでお話しすることは控えます。

 

根拠は、どこにあるのか

 

「その新規に参入する業界は、どうやって考えたのですか」

「そうですね。その業界自体の売上はちょっとは伸びているんです」

「どうやって、その業界の売上げをつかむのですか」

「業界の集まりがありますから、コネを探して何とかして出てみるのです」

「出てみると、どうなるのでしょうか」

「簡単ではありませんよ、一回だけ出ても、どうにもなりません」

「そうですか、それでどうなるのですか」

「こりゃよいとなって会員になると、資料が貰えますよ。それに、今は公的な資料が省庁ホームページから手に入りますので、それを検索します」

「そうですね、公的な機関で一生懸命なところがありましたよ」

 最近、関西地方に足をのばしているT社長が口をはさみました。

「それは、どこですか」

「先日、用件があって大阪に行きまして、時間が余ったので図書館に行ったら、とても良いのです。優れた司書の方がいるのでしょうかね、ビジネス書籍も充実していましから」

「そうそう、東京でも優れた図書館があればよいと思いますよ」

 暇を見つけて本をよく読むS社長も話し始めたので、話題は今評判の本の話に移って行きました。

 業界団体や省庁が出している資料は、一般に信頼されます。その資料を探すには、優秀な司書がいる図書館へ行くのもよい方法です。従業員や金融機関等と話し合う時に、公的な資料を活用することは自分自身の思い込みを避けることができ、説得力が増します。事実をつかむ、これが出発点です。

 

売上につながるよう資料を集めたいが・・・

 

 紙工業の社長が、ちょっと遠慮しがちに話し始めました。

「自分のところの売上と言いますか、貢献するような数値などを集める工夫が要るように思いますが・・・。とにかく数値集めは時間がかかると言うのか、限りがないように思いますので・・・」

「そのとおりです。数値を集めたって、売上げが増える訳ではありません。数値集めは自分と従業員が分かればよい範囲で終わりにする、そのとおりですね」

「そうだよね、資料というのは限りがないからな、自分でWEBを使って検索すると、良く分かりますよ」

 資料や数値を集めることは、この頃は昔と比べると楽になりました。でも、資料や数値ばかり集めても、どうにもなりません。売上げに結びつくように、資料集めは常に目的を考えて行うことが大切です。

しかし、資料を集めったって、それだけで売上が上がるものでもありません。

 PDCAの前段階として、CA(事実をつかんで、事実から役立つことを探し出す)として資料と数値をつかむという結論になりました。

中小企業診断士 窪田靖彦