5年ごとに国立社会保障・人口問題研究所が日本の将来人口を推計し、その結果が公開されています。この推計には、最新の国勢調査による男女・年齢別人口、将来の仮定値率(出生率、生残率、国際間の人口移動率、出生性比)を用いています。この将来人口推計は、当たるものと思われているようで、評論や政策などに使われています。ところが、上記研究所のホームページを閲覧したら、1965年国勢調査に基づく2015年将来人口推計は当たっていませんでした。1965年の将来推計では、50年後の2015年人口は最少131,026千人から最多146,474千人までの範囲になると推計していました。しかし、実際の人口は2015年簡易国勢調査速報値では10月1日現在の外国人を含めた日本の総人口は127,114千人で、1965年将来推計の2015年人口最少131,026千人を下回っています。閲覧した報告書を見ると、この違いは出生数を仮定した値が実際との違いからきていると思います。将来人口推計は当たるものだ、と思っていましたが誤りでした。この推計値を見ながら企業にとってはどのように使えるのだろうか、推計するとしたら、目的は何だろうか、と考えてみました。
なぜ、役員や従業員の年齢構成を推計するのか
企業が何の目的で自社の役員や従業員の将来を推計するのか、その目的はいろいろとあると思います。しかし、どの企業でも共通することは、経営者でも従業員でも”誰でも、歳を取る”と言うことです。多くの日本企業では従業員の定年制(注)が就業規則で定められ、経営者など取締役は別途定められていれば、”誰でも、歳を取る”のですから企業を離れることになります。このような事実から考えてみると、”誰でも、歳を取る”から10年先の役員や従業員の年齢構成はつかめます。社歴のある企業であれば、定年を迎える従業員も出てくるでしょうし、上記研究所の推計の仕方を参考にすると、定年は「生残率」になり、「出生率」は企業にとって新規採用数がこれに当たり、「国際間の人口移動率」は企業では中途採用者の出入りになるでしょう。
"年齢構成表"への反応① この機会に従業員などの顔を思い出して
このように考えて、いくつかの支援先企業に縦軸に氏名・年齢・職種・職位、横軸に2017年から2027年までを設けた”年齢構成表”を送りました。もちろん、社長氏名を縦軸の一番上の書きました。すると、次のような問い合わせや活用方法が寄せられてきました。
「”年齢構成表”には、自己都合による退職する者は、どのように扱うのでしょうか。今後、事業を進めてゆくうちに、個々の従業員にはいろいろな事情が生じるのではないかと思いますので」
自己都合退職者は、国際間の人口移動率に該当するので、当然扱いますがちょっと考えてから回答しました。
「この表を作ると、”今、何を考えているのかな”、と従業員や役人の皆さんの顔が浮かぶと思います。”今、何を考えているのかな”等は考えるきっかけなれば良いと思いますので、表には注記してください」
"年齢構成表"の年齢は分かっているのでまとめ易い一方、例えば「なぜ、某さんは自己都合で辞める」と思うのか、その背景を考えることになり「辞めさせないために、どうするか」の行動につながります。言うまでもなく、今や、人口が減り、採用は売り手市場なので難しくなったことがあります。それに、学歴が低いほど離職者率が高いと報じられていましたので、付け加えました。
「2013年では3年目まで辞める割合は大卒者が31%、高卒者が40%、中卒者は64%だそうです。こんな具合で辞めて行かれては、企業はたまらないですよね、育ったら辞めてしまうのでは」
「そうなんですか、だから”今、何を考えているのかな”と考えたらよいと言われたのですね。よく意味が分かりました。特に若手社員を気を付けてゆきたいと思います」
「具体的には、貴社で既に行っている定期の社員面談で話してみたり、社員の集まりに出てみて話を聞いたり、普段の中で聞くことがいいと思いますよ」
普段から、今まで以上に社内の様子に気を配るようにしたい、となったそうです。
"年齢構成表"への反応② この機会に人事を考える
二代目の経営者からは”年齢構成表”は使えるとの話が来ました。これからの人事配置をどうするのかを検討しようと思っていた時に、この表が来たので使うとのことです。
「当たり前のことですが、”誰でも、歳を取る”ので、初代の時からの幹部はそろそろ引退かなと思っていましたが、”年齢構成表”を作ったらそれがハッキリしてしまいましたよ。それで、その後をどうするのかを考え易くなりました」
「そうですか、貴社の場合、各部門の責任者がこれから10年の間でそろそろ定年になるのですか。すると、後任の候補を今から予定することができますね」
「そうです。それに、後任の候補たちの能力と言うのか、意欲を考えると、新しいことをやりだすのではないかと思ったりしています」
「それは、どうしてですか、上がつかえていたので、気を使いすぎとか」
「そうなのですよ、これからは俺たちが引っ張らないといけないと思っている者達ですから」
楽しみな会社です。
"年齢構成表"への反応③ この機会に自分自身を振り返る
"年齢構成表"は良い表だ、と言うご意見が多かったが、その中で次のようなお話も出てきました。世の中、いろいろです。
「自分の歳はそれなりに分かっているつもりですが、”年齢構成表”を見ると私と同じ年配の者は数人だと言うことが分かりました。それに、こんなに明確に自分の歳が突き出しているとは、あらためてこれからのことを考えましたよ」
「そうですか、ご自身が”年齢構成表”を作られたのですね」
「そうですよ、まさか跡取りに作らせるわけにも行かないでしょうから。それにしても、こんなになっているとは思いもよりませんでした」
現実というのか、事実を見るのが経営ですから、ここから跡取りに譲るようになれば、跡取りは初代に尋ねることもでき、良い承継になると思いました。
「それで、前から気になっていた事業の承継を検討したいと思っております。税理士さんと話をしますので、何かありましたらよろしくお願いします」
使い方は、いろいろですから、考えてみてください
”年齢構成表”を作ることは、その過程にも意味があると分かりました。整理すると、つぎのようになります。
1.事業の後継者は、どうするのか。
2.10年後の事業はどう進めますか。
3.事業を行う人材をどう育成するのか。
4.採用はどうすすめるのか。
この機会に、この文を読まれた皆さんも、”年齢構成表”を作られたらどうでしょうか。
中小企業診断士 窪田 靖彦
(注):米国では1964年人種、肌色、宗教、性別または出身国を理由とする差別禁止の公民権法第7編が制定し、1967年雇用における年齢差別禁止法が成立している。この法により、採用希望者は履歴書には生年月日を書きませんし、採用面接の場で生年月日や年齢を尋ねることはありません。
判例では、2011 年4 月 マサチューセッツ州のホテルチェーンの経営幹部が、高齢による差別的取り扱いに対する不満を会社に申し出たところ解雇され、その後就業の機会を得られなかった。これを違法な報復による解雇として提訴した結果、陪審により逸失利益と精神的苦痛に対する慰謝料の合計で450 万米ドルが認められています。