現在は黒字になる売上には到達していない、しかし、借金を返さなければならないので売上や利益計画を立てるよう銀行に求められている、黒字になる売上目標をどのように立てるのか、でも現在は黒字になる売上が見えてこない、ではどうしたら良いのか、このような輪にA社は入り込んでしまいました。
私鉄の駅から10分程度歩いた坂道の途中にA社があり、引戸を開けると直ぐにB社長の出迎えを受けて、挨拶もそこそこに説明を受けました。
A社は今まで2カ年間赤字でしたが、直近年度は黒字となり3年をとおしてみると赤字です。B社長は、3つある部門のうち1つの赤字部門のてこ入れするために、同業からこれはと思う人材を入れると共に、経営責任を明確にするため自身の報酬を3年連続で減らしています。
今年度はスッキリとした黒字にしたいとの思いから、例年とは比べようも無く計画の立案に力を入れています。主だった従業員には財務実数を示し、経営の考え方について幹部が同じ方向になるように何回かの会議で話し合いました。その会議に中小企業診断士は立ち会うよう求められました。
皆さまには、守秘義務から外れた計画編成過程の一部を参考に供します。
1.お客様が満足されているのかどうかは、なにに現れてくるのか
計画の編成の席で出た話です。日々働いていると「お客様が満足されているのか」を考えることがどこかに行ってしまって、今の仕事をとにかく成し遂げることに集中してしまう、という声が多く出ました。
C幹部が、過去5年度のお客様別売上高表を見て、「毎年お客様が入れ替えっているな」、「どうしてだろう?」と言い出しました。D担当が「入れ替えったそれらのお客様は、その仕事限りという約束だった」と説明します。「しかし、当社がもし良い仕事をして、お客様が満足されていれば、違った展開があったかも・・・・・・」と最も若いE社員が遠慮しながらも言い出しています。若いEは、A社の実情を知って、何とかしたい気持ちが発言に出ています。
特別な事情があれば別ですが、「お客様は満足されれば、また、発注される」となります。あるいは「ここに行ってみないか!」と知り合いを紹介されることは、お客様が大いに満足されているからです。そうでしょう、推薦するからには、本当にA社をいいと思ったからです。
中小企業診断士の助言で、お客様が「当社の成果をどう評価されているのか」をとらえることになりました。と、言ってもどう進めるのかという質問が若いEからあり、中小企業診断士が次のように答えました。引き続いて発注されて来ないお客様は「なぜ、そうなのか」、これを「素材の加工精度などの仕様と品質は、ちゃんと注文どおりなのか」、「一度、約束した納期を守ったのか」、「こちらの価格はどう受け止められたのか」の3点からできる限りとらえるように助言しました。そして、満足されなかった点が再び生じないためには、どうしたらよいのかを話し合いました。QCD注の点から見たら良いのです。
次に、お客様が「当社や社員をどう評価されているのか」は、電話口で感じの良い対応、例えば「電話には直ぐに出ること」から「電話を受けた者が、自身の名を名乗ること」など入口は大事です。これも、できるだけお客様の立場から考えてみました。C幹部が言いました、担当しているお客様がA社に電話し、用件を言ったら「お待ち下さい」と言われて、担当者に電話が廻ると「どのようなことでしょうか」となったと。これでは、お客様に二度同じことを言わせており、代えようと。若いEは、「そうですね、それに電話が鳴ったら、直ぐにとることも大切です」と反省をこめながら話しています。
2.なにが、当社の良い点なのか
加えて、「自社で自信を持っている点は何なのか」「同業他社などから、褒められた点は何なのか」も加えるよう中小企業診断士が助言しましたのは、人は誰でも自身に自信を持っている限り、困難に立ち向かうことができるからです。他薦や自薦を取り上げる事は、A社の従業員が自分に自信を持つことになり、計画をたてる際に欠けてはならない事です。「紹介を頂いたお客様はどの点が満足されたのか」も話し合う過程は、従業員が自信を持つ重要な場面です。
D担当も、次第に力が入ったのか、「そうだよ、こんなことはたいしたことじゃないと思っていたことが、良いねと言われた」と言い出しました。D担当は、今まで褒められた事がないためか、「当社の加工技術はたいしたもんだ」と言い始めました。
計画は数字だけではなく、その数字を実現する手立て、例えば「なににお客様が満足されたのか」をハッキリさせ、「お客様満足をどうしたら再現できるのか」を計画に織り込むことが必要です。
3.営業は、営業担当や営業部課だけの仕事じゃない
身近な点では、今日引戸を開けB社長の出迎えを受けた後、会議室までの間で従業員の方となん人がすれ違いました。しかし、どの従業員からも挨拶がないことが気になっていました。今日が初日でしたが、早いほうが良いので会議に参加している方は気になる点を話しました。営業だけが「数字を実現する手立て」を創るのではなく、従業員皆さんが「お客様を大切にする」ようなれば、「A社は、気分の良い会社だ」となり、次につながると。
幹部Cがうなずいています。
製造業のA社であれば、製造、資材、品質管理、総務経理などの部署が「数字を実現する手立て」を分担し、それぞれが実現することで、売上計画が達成します。営業担当だけが、営業するのではないということです。
外から来られた方には、従業員皆さんが「感謝の気持ちをもって」挨拶をしましょうとお話ししました。C幹部は今まで感じてはいましたが、「感謝の気持ちをもって」と言われると、そのとおりだと言っています。幹部がそう思って、行動すれば、D担当、若いEもそのとおりになります。
4.過去5カ年間、お客様の移り変わりの原因はどうか
お客様の移り変わりを5カ年間の表にまとめてみました。新たにお客様になられた経緯を「紹介を頂いたこと、展示会などで関心をもたれたこと、数年間取引がない先に働きかけたこと、飛込み営業したこと、WEBから問合せがあったこと等など」に分けてみました。5カ年間の前半は「紹介を頂いたこと」によって取引を始めたお客様が多くありました。後半は「展示会などで関心をもたれたこと」が一番多くなりました。どちらかと言えば「紹介を頂いたこと」によるお客様からは5カ年間ほとんど変わらない売上を上げています。「展示会などで関心をもたれたこと」によるお客様は、急激に増えて「紹介を頂いたこと」を2年前に抜き去りました。
この”新たにお客様になられた経緯”をどのように区分けするかは、それぞれの企業によって、あるいは企業の属する業界によっても違うのではないかと思います。読者の皆さま、お考えください。
新しいお客様を常に探す理由も、打ち合わせ会では念のため確かめました。時流の変化に応じることができないため、市場から退場した企業もあります。
当方が、市場退場する企業から受注をいただくことはできませんから、新たな企業を探し当てる事がどうしても必要です。家電業界の同じ市場に居る企業でも、それぞれ各社の努力によって、浮き沈みがあることは新聞等で報じられています。
5.常に新しいお客様を探す
A社は、5年前までは「展示会などで当社が関心をもたれること」は期待できないと思って参加しませんでした。社内では、自社で持っている加工技術はたいしたことはなく、よくあるものと考えていたからです。中小企業診断士が「今持っている加工技術は他に見られない。ひろくお知らせしたら取引が増える」と助言したことが契機となって、展示会や商談会に参加しはじめています。外の風に当ると自社の良さや改善すべき点が分ります。
都や県、区市町村は、地元の企業が活き活きとすることを政策として織り込んでいます。これら地方公共団体は、展示会や商談会を開いて、企業間の取引機会を増やしています。このような機会を活用されることを助言します。
6.付加価値を出しているのか
売上高には、お客様がある企業が提供するコトとモノ注について関心の高さと低さが映し出されています。モノに付加されているコトとについて関心が高ければ、お客様から発注されるし、従業員も働く意欲が出ますし、発注者もこのような素材加工する企業をあてにします。
例えば、下請素材加工企業では仕様通りに作ることは当然です。しかし、難加工素材を精密に加工するために、加工に長けた技術員が発注者と話し合って、細かく仕様を検討して加工までできるようになれば、高く評価された事例がA社にはあります。下請素材加工企業でのコトとは、相談話し合いで解決する事を含みます。これが、付加価値の例です。
7.自分たちがすることが、売上げに結びつく
数度会合に出席して、売上計画がまとまりだしました。
A社長は、「売上計画は、数字を並べたものではない。数字を実現するために自分たちが何をするのかをシッカリすることだ」と自分に言い聞かせるように言いました。
A社長の発言を聞いた、C幹部、D担当そしてEは、作業の手を止めて立ち上がりました。そして、互いに手を握り合いました。その3つの手の上にA社長の分厚い手が重なりました。促されて、中小企業診断士も手を重ね合わしました。
企業が続くことは重要なことですし、従業員も黒字企業に長くい続けたいと思います。中小企業診断士は、A社が今期黒字になることようこれからも支援を続ける事にしています。
今回は、ちょっと長くなりました。売上計画を立てることに苦労しているのは、A社だけではありません。すこしでも皆さまの参考になれば、何よりです。
注:品質(Quality)価格(Cost)納期(Delivery)の頭文字をつなげたも。製造業で用いられ、生産管理において重要な要素である。今では、経営で重視すべき3つの要素となり、各目標を定め、どう実現するのかの手段を作ることが基本。
注:お客様は商品を消費するため(モノ)に購入するのではなく、モノを購入する場合に「それを使用することでどのようないいこと」(コト)があるかを期待している
中小企業診断士 窪田靖彦
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