会議とは何か

 詳しく書くことはできませんが、次のようなことに度々出会います。

 毎月行われるO社C社長が主催する会議でのことです。数年前から中小企業診断士は、社長から依頼されて出席しています。O社は、従業員が80名程度の部品加工業で、営業部署が置かれていて、生産部署と検査部署、そして会計総務の部署があり、会議ではそれぞれの部署から複数の方から報告があります。

 

同じことを二つの部署が報告

 

 検査部署からは、検査結果を工程別、出荷先顧客別に発生状況を報告します。一方、生産部署は、検査部署の報告内容と同じ報告をそのまま毎月繰り返していました。毎月、二つの部署の報告内容は「どのような不良が、工程別と顧客別にどのくらい起きた」と同じ内容なのです。そして、会議に出ている方々からは何の意見や質問が出てきません。このような状態が続くので、中小企業診断士は、会議終了後に社長に話しました。

「生産部署と検査部署から同じ報告であっても、変だなと言った意見が何方からも出ません。静かに早く会議が終われば良いと、皆さん考えているでしょうか」

「いや、そうじゃなくて、会議と言うものはどうしたらよいのか、皆は分からないのではないかと思っています」

「それでは、会議は、どのようなキッカケで始められたのでしょうか」

「お忘れになったかもしれませんが、先生の診断を受けた時ですよ。50人を超えて複数の部署があるだから、何かを決めたり、問題を解決するときには、主だった従業員にはどう決めたのか、分かった方が良い、と言われたのです。そして、従業員の間で意思疎通を円滑にするには会議が要ると言われたことがキッカケです」

 

課題解決のために、意見を出し合う

 

 中小企業診断士は、そう言われてみれば、診断結果報告の際のことを思い出しました。

「そうですか、意思疎通を円滑にするためと申し上げましたか。その後、数年経ちますので、どうでしょうか、”課題をどのように解決したらよいのか、提案や対策を話し合うこと”を加えたらどうでしょうか」

「そうですね、まだこれからと思っていましたが、同じ報告が出てきても、何も意見がでないようなことは、単なる集まりと同じですから。よろしくお願いします」

 この会社では、会議を開くのも、そして、外部の人間が会議に出るのが初めてです。

「では、こうしましょうか、次の会議では私から助言をします。おそらく、数回同じことをお話しても、何も変わらないと思いますよ」

 C社長は、頷いていましたが、ゆっくりと口を開きました。

「分かりました、先生から助言があった会議の後、私から現場に出かけて話してみます」

「そうですね、部署としては今までして来なかったことを自発的に解決するようになるには、時間が掛かりますから、ここは忍耐強く行きましょう」

 次の会議の中で、中小企業診断士は出席者の顔を見ながら話し始めました。

「どうなんでしょうか、例えば、生産と検査の二つの部署から、同じ報告が毎月継続しています。どうして、二つの部署は同じ報告をしているのでしょうか。生産の方は改善する対策を話したら、と思いますがどうでしょうか」

 

何も変わらない会議

 

 生産と検査の部署は、それでも、黙っています。他の部署の出席者も、静かなものです。次の次の会議でも、同じことを繰り返していました。何の反応もなく、誰も中小企業診断士の方へ目も向けません。検査部署の方は、検査結果を報告するのは当然だ、と言いたいようです。生産の方は、自分の所の品質状況を報告して何が問題になるんだ、と思っているようです。

 中小企業診断士は、同じことを毎月話すことを繰り返していました。が、数か月は経ったころ、次のように付け加えました。

「こんなことを話すと、当たり前じゃないかと思われますが、お話します。それは、生産と検査の部署は、不良発生については、役割を分担して、解決したらどうでしょうか、と言う事です。例えば、生産は不良発生の現物と現場をよく見て、再び生じないようにすることを担当します。検査は不良の発生により、顧客先にご迷惑をおかけることになりますので、生産が実施した対策とその効果を、よく見ておきます。そして、顧客先に営業と共に説明してご理解をいただく、と言うようにです」

 ここまで役割分担まで話しましたが、それでも相変わらず、毎月同じように報告し続けています。ここが頑張りところと分かったのは、後日のことです。外部の人間から言われることに抵抗があること、そして、今まで部署が互いに協力して問題を解決したことがなかったことが、裏側にありました。

 

若手が言い出して、変わった

 

 ある月の定例会議で、生産部署からの報告書に”不良の状態を書いた後に、これからはこのような対策を取る”とありました。これだと思うと同時に、率直に嬉しいものでした。会議が終わった後、社長と話しました。

「今月の生産部署の報告は、良かったですね、頑張りの甲斐がありましたね」

「そうなんです、何回も工場の者達と話しあいましたよ、それは」

「どうでしたか」

「初めのころは、何故外部の人が言うことを聴かなければならないんだと言ってましたので、社長の私も同じように思っていたよ、と話しかけました」

「そうですか、言い分を取り込んだのですね」

「そうです。その上で、不良が出ていることは、どうなんだ、と問いかけました。すると、若手のISO14001注の内部監査注員が不良はムダと言い始めました。これが、切っ掛けになりましたよ」

「そうですね、ISO14001では環境に優しいことを行うのが、役割ですからね」

 若手社員は、ISO14001の内部監査員の研修を受けたばかりで、素直に話したそうです。すると、ベテラン社員の一人が言い出しました。

「その通りだよ、いつも言っていることだ。不良を作っちゃ、材料のムダ、電気代のムダ、それに皆の時間もムダになるんだ」

 これが切っ掛けになり、不良が出てしまったら、不良を始末をした後に関係する従業員が集まって、「どうしたら、再び不良が生じないようにできるのか」を、現物注を見ながら話し合うとなったそうです。

 

変るには、時間が掛かる

 

 社長は、今まで営業に力を入れて、とにかく受注を獲得するために率先していました。しかし、この時の経験から、生産や品質、そして総務経理が変わるためには、現場に行って、現物を見ないと、実際が分からないことを学びました。しかしながら、それには時間がかかると言う事です。待つと言うことです。中小企業診断士も良い経験をしました。

中小企業診断士 窪田靖彦

注:ISO14001は、企業等がその組織を取り巻く人や物に対して与えている影響を悪ければ改善して行く仕組みを作る国際規格です。この認証を取得すると「環境に優しい企業」と評価されます。

注:3現が大事と言う事です。「現場に足を運んでその場と見る」「現物を手に取って物を見る」「現実を見て、実際を知る」ことで、問題が分かると言う事です。