1.息子や娘がいれば、後継者の第一候補!?
小規模企業の調査によると、経営者は事業継承の継続したい57.2%、未定29.1%、廃業したい13.7%。そして、経営者の年齢が高くなるほど、「廃業・縮小したい」割合が増えています。廃業したい理由としては「息子・娘が継ぐ意思がない27.3%」、「適当な後継者が見つからない21.4%」、「息子・娘がいない5.9%」と言う後継者難が54.6%を占め、「事業の将来性がない35.9%」、「地元の需要・将来性がない5.1%」です。このように事業承継の課題は、第一に事業承継したいのだが「後継者が見つからない54.6%」、次に「事業性が無い35.9%」に絞られています。
後継者の事例を参考に供します。
2.迷っている後継者
数年前に「経営指針を創ろう!講座」を開いたところ、30名近い方が参加されました。講座のはじめには参加された方がそれぞれ自己紹介を行いました。その中にスーツ姿の若者がいて、すこし緊張しているのか早口で終わりました。大手ITベンダーに入社したばかりで、まだ仕事を覚えている最中なので、皆さんの邪魔にならないよう気をつけて出席するといった自己紹介でした。いかにもルーキーという感じの好青年でした。1回目の講座は、「経営理念はなぜ必要なのか」からはじまり、経営理念の意義や創り方、社内への徹底の必要性とその仕方などでした。2回目は、「経営理念を実現するための中期計画」の作成が主な題材です。講座は、毎回終了後に参加者同士が「経営者には何が必要か」などを話し合い、参加型の講義にしていました。ルーキーが残っていたので、声を掛けると「ご相談したいことがあります」とのことです。話しを聞きますと「父が経営している会社をいつ継ぐかどうか迷っている」とのことです。父親の会社は、地方都市でソフトウェアの開発を行っているとのことです。
3.「今の仕事をやりきろう」
「連休中、親と話したところ、いつ帰るのだ」と言われたそうです。
「あなたは、まずは会社員として一人前になるよう日々の仕事に取り組んでみたらどうですか」
「そうですか」
「今の仕事を中途半端でやめてしまっては、仕事がどのようなことなのかも分らないですよ」
「そうですね」
「会社を経営するにしても、今のままではなにもできない」「とにかく、今の仕事が出来るようにします!」
その後は一生懸命に講座に通って質問をするなど積極的でした。講座は予定の7回行い終了しました。
それから4年ほど経って、ルーキーからメールが到来しました。
「お会いした当時は1年生社員でしたが、今年で5年目になります。業務についても分り始めたこのごろです。その後、自分なりにいろいろと考えました。そしてまずは、一人前の社員になるよう日々の仕事に取り組んでいます。皆さんからは、”会社経営の前にまずは会社員として一人前になるよう取り組んでみたらどうか”と言われたからだと強く感じております。本当に感謝しております。まだまだ半人前ですが、これからもお言葉を胸に日々精進してまいりたいとぞんじます」メールを受け取り、講座を共催した中小企業診断士と「あの時の助言がこのような感謝の言葉で帰ってくるとは」中小企業診断士の冥利に尽きると喜び合いました。4.経営者は経営能力と信頼性が求められる
別の調査では後継者に求められる点は「経営能力の優秀さ56.3%」が最も高く、「役員・従業員からの信頼46.3%」、「血縁・親戚関係39.3%」、「取引先からの信頼24.6%」と続いています。
事業を承継する者は、経営能力がない、また、周囲から信頼されないと企業をつぶすことになりかねません。後継者がこれら能力と信頼性を獲得するには、後継者自身がその気になることが第一です。それには、息子・娘が自分のためになる機会を自分で探し当てることです。事例のように刺激のある講座に出て良い経験をすること、あるいは、優れた経営者の企業で修行することなどがその機会としてあるでしょう。これらの機会は、現在の経営者である親が探して「ここに行きなさい!」と支度を整えてはなりません。息子・娘が自分自身で考えて探し当てることが「やり切ろう」という意欲に結びつきます。経営は判断と行動の連鎖です。息子・娘は自分で「どのように経営力をつけ、信頼性を得るか」を考え、どのような機会を選ぶかはその訓練になります。
引用調査
:2012年11月野村総合研究所「中小企業の事業継承に関するアンケート調査」
:2005年12月三菱UFJリサーチ&コンサルティング「「事業承継」「職業能力継承アンケート調査」
中小企業診断士 窪田靖彦