2025年版中小企業白書によれば、中小企業における後継者不在率は減少傾向にあるものの、依然として52.7%と高水準です。さらに、中小企業経営者の過半数が60歳以上を占めており、事業承継は依然として大きな経営課題であることが明らかです。
私は都内の中小企業を年間数十社巡回し、経営者と面談を重ねながら、公的機関の支援策の紹介と活用促進を行っています。現場を回る中で痛感するのは、「まだ元気だから」「今は目の前の売上が優先だ」と承継準備を後回しにする企業の多さです。
支援活動をしている中で、ご高齢の経営者であるにもかかわらず具体的な承継計画が策定されておらず、今後の事業の継続に懸念が残るケースは多数遭遇しました。一方で、若い2世が既に経営の中心を担い、従業員や取引先からも信頼を得ながらスムーズな承継を進めている企業もあり、現場には悲喜こもごものドラマがあります。
事業承継には、親族承継・従業員承継・第三者承継という3つの選択肢があり、それぞれの会社の状況に応じた判断が求められます。株式や資産の承継も重要ですが、それ以上に大切なのは、技術・ノウハウ・信頼関係・理念などの「見えない資産」(知的資産)の承継です。これらは決算書には現れませんが、企業の価値そのものといっても過言ではありません。こうした見えない資産の継承支援は、税務や法務の専門家だけでは対応しきれない領域です。だからこそ、私たち中小企業診断士の出番なのです。私たちは、おおむね10年スパンの事業承継計画の策定を支援し、経営者や後継者に寄り添いながら実行を伴走していきます。
例えば、公的機関の1つである東京都中小企業振興公社では、事業承継に関する相談、承継計画の策定支援に加え、外部専門家等を活用する際の費用を補助する「事業承継支援助成金」や、後継者のスキルアップを図る「事業承継塾」といった多彩な支援メニューを提供しています。
多くの経営者が事業承継の重要性は理解していても、日々の経営に追われて具体的な行動が後回しになりがちです。しかし、事業承継の準備は、早ければ早いほど選択肢が広がります。せめて60歳を迎えたタイミングでは、次の世代へのバトンタッチを真剣に考え始めていただきたい。
そして最後に、私が事業承継支援を通して強く思うのは、究極の事業承継とは「会社を磨き上げること」だということです。誰もが「引き継ぎたい」と思える魅力ある企業であれば、親族に後継者がいなくても、必ず道は開けます。事業承継とは単なる引継ぎではなく、企業の未来を切り拓くチャンスなのです。
(添田 守輝)