昨今の人手不足、特に若手の確保が難しい中、各社とも採用と人材の定着に並々ならぬ努力を重ねておられます。待遇や労働環境の改善、採用条件の緩和はもちろん、中小企業でも副業・兼業の許容や柔軟な勤務形態の導入など、多様な働き方の整備が広がっています。
本稿では、その中でもリモートワークに焦点を当てます。
リモートワークはCOVID-19の拡大期に急速に普及しましたが、現状は“出社回帰”の動きも見られます。背景には、緊急措置の解除だけでなく、「出社・対面の方が効率的」「業務管理、評価、意欲の維持が難しい」といった課題があげられます。
但し国土交通省の調査(※1)をみると、この回帰はリモートを主とする層への出社促進の意味合いも大きく、週に数日の出社と組み合わせるハイブリッド型勤務は、柔軟性と組織運営を両立できる方法として多くの企業に定着しつつあるといえそうです。ただ、残念ながら中小企業ではリモートワーク導入自体も限定的です。
ここで人材の定着や採用力の強化といった観点で見てみましょう。
リモートワークは、従業員・企業の双方にメリットがあります。まず、従業員の視点で見れば、通勤時間の削減、家庭との両立、ワークライフバランスの維持といった利点が挙げられます。特に介護や育児を担う従業員にとっては、たとえ週1〜2日のリモート勤務であっても、仕事を続ける上で大きな支援となります。
一方で、企業側の視点から見ても、有効な人材戦略の一つです。求人サイトの調査(※2)によれば、2025年3月時点で「リモートワーク」の検索割合は全体の2.2%を占め、2019年3月と比較して2.9倍に増加。COVID-19以降、求職者のニーズが明らかに高まっていることが分かります。勤務時間、給与、休日等と同様に労働条件の重要な構成要素となっているといえるでしょう。
こうした背景を踏まえれば、リモートワークは単なる“働き方の選択肢”に留まらず、採用母集団の拡大や、時間的制約のある即戦力人材、地方在住の専門人材の獲得につながる可能性を秘めています。更に、既存社員に対するエンゲージメントの向上や離職防止に寄与しており、実際にその効果が表れている企業も少なくありません。
しかしながらリモートワーク導入には、セキュリティやIT環境の整備、業務評価や組織文化との調和など、中小企業にとって多くの懸念が存在します。資金や人材の制約に加え、業種によっては導入が難しい業務もあるでしょう。とはいえ、最近では小規模に導入できるツールも増えており、制度についてもまずは一部業務や組織から検討始めることも考えられます。この時、中小企業ならではの迅速な意思決定とコンパクトな組織体制が、変化に対応する強みになるでしょう。
リモートワークの導入・運用は簡単なことではありませんが、採用・定着のための組織制度の1つとしてぜひ心に留めていただきたいと思います。
■参考情報
国土交通省 / 令和5年度テレワーク人口実態調査-調査結果(※1)
https://www.mlit.go.jp/toshi/kankyo/content/001735166.pdf
Indeed Japan株式会社 /リモートワークに関する仕事検索動向を調査(※2)
https://jp.indeed.com/press/releases/20250422
総務省 /情報通信白書令和5年版 データ集
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/datashu.html#f00328
(高木 明日香)