新製品の説明

 その日は、前の用件が少し早めに終わりましたが、風が強いのでそのままK社に向かいました。受付電話で来意を告げたところ、「会議室にお入りください」、とのことなので扉を開けて入りました。社長を入れて4人の方が、パワーポイントを見ながら話し合っていましたが、社長がこちらを振りかえって「どうぞ、お座りください」と言われました。打合せの様子を窺っていると、販売代理店向けに新製品を説明する内容を検討しているようでしたが、社長がこちらをに向き直りながら言いました。

「前にお話ししました例の新製品をどう説明したら良いのか、話し合っているところです。丁度、一段落したところですので、初めから説明させますので、ご意見をお願いします」

 このように、突然出くわすことはそう度々はありません。パワーポイントの25枚ぐらいの説明を聞くことになりました。よく聞き取れない小声の説明でしたが、やがて説明が終わり、「なにか、ご意見を」と言うことになりました。

 

何が独自性なのか

「それでは、2ページを開けてください」

 エッ、と言う驚きの声が上がりましたが、やがて2ページがモニターに映りました。

「このページには、貴社の新製品の特徴(注)が出ていて分かりやすいと思います。加えて、次のページからには、今迄の貴社の製品や他社品と比べて、良い点とそうでもない点をあげておくと、説明を受ける代理店担当にとって分かりやすい説明になると思いますが、どうでしょうか」

 4人の方々は黙っています。やがて、社長は言われました。

「ありがとうございます、その点は、追加するように検討します」

 担当者が、ちょっと不満そうで言い出しました。

「それはそうですが、今ある自社品と比べることはできますが、他社品ともなるとどうしたら良いのか分かりません。実際にはどうするのでしょうか」

 よくこのように、どうしたら良いのか、と具体的に言ってもらいたいと言われます。

「代理店さんが他社品を扱っていれば、代理店の担当からも他社品への意見を聞くことができますし、担当からご紹介して頂いて、既に他社品を使用している事業所さんをお訪ねしたらいろいろとご意見や希望を聞くこともできます」

 新製品を企画したり、開発したりする担当者は、このように他社品の情報を収集している方法を説明しました。すると、質問がありました。

「他社品をあまり扱っていない場合は、どうするのでしょうか」

「今から申し上げることは以前にもお話ししましたが、新製品の企画や開発をする前に行うことですが、今からでも行うことができますよ。それは、展示会など貴社品と同じ製品が紹介されているところに行って、情報を集める方法です。情報といっても、説明パンフレットを集めるのです。説明パンフレットなどは、展示会で入手できますし、ご存知のように、仕様や期待効果などが載っていますから、貴社品との比較ができると思います」

 皆さん黙っているので付け加えました。

「場合によって取扱説明書を手に入れることができれば、大いに参考になりますね」

 社長は頭を下げながら、「どうぞ前に進めて下さい」、と言われます。

 

どのように販売するのか

「そうですか。それでは、次は12ページを開けてください」

 ちょっと時間がかかりましたが、やがて、12ページがモニターに映りました。

「このページは、新製品の企画や開発から、代理店へ説明し、販売を開始するまでを示しているように思いますが、そうでしょうか」

 説明している方が、余り自信がないように言われました。

「そうですが、何かあるのでしょうか、よろしくお願いします」

「このガンチャート(注)を見てみると、”販売の開始”の前が空白になっています。代理店向けの説明なので、”販売の開始”までに貴社と代理店とが行うべきことを列挙したら良いと思います。それには、代理店の経営者の方から担当まで、お願いすることを明確にしておきます。それらは、当然、貴社が行うことと整合しておきます。お互いが行うことを記載したら、どうでしょうか」

 説明している方は沈黙です。どうした良いのか、と思っているような感じです。

「例えばですが、このパワーポイントを説明した後、”販売の開始”までなにを(注)するのか、考えてみたら良いと思います」

 説明担当は、そうかと言いながら話し始めました。

「そうですね、例えば取説の作成があります。代理店向けにできた取説の説明会が要ると思います。それに、その説明会で受けた質問などを織り込むことでしょうか」

「その通りです。お互いに意見を述べ合うと、売りやすくなりますよ。そのほかにもありますよ」

 

具体的に、正確に表現する

 社長が、「担当に考えさせますので」と言われましたので、もう一か所について話をしますとして、17ページを開けて貰いました。

「この頁は、実際にいろいろな処でも新製品を使った場合を示していると思います。しかし、いろいろな処の例示として載せている写真は全部同じですよ(注)。同じ写真ではなくて、いろいろと違う処の写真を使うと、本当だとなって説得力が増しますよ」

 社長が、そこで「ちょうど、会議が始まる時間となりました。ありがとうございます」と言われて終わりました。

 会議が終わったところ、社長に言われました。

「よく細かいところまで時間のないところで、見ることができるものですね」

「そんなに驚くことではありませんよ、相手方の立場に立って、画面を見れば良いのですから」

「しかし、ページ数をその都度言われたのには、驚きました」

「そうですか。でも、たくさんのパワーポイントですから、何処について申し上げているのかを分かりやすくしたのです」

「分かりました。代理店さんへの説明も、分かりやすくします」

 このように、説明の対象は代理店に限らず分かりやすくして、相手方が納得することは必要なことです。しかし、いくら説明が素晴らしくても売れない新製品はあります。売れるのかどうかは企画の段階で決まってしまうことを付け加えました。

 

 

 

中小企業診断士 窪田靖彦

(注):3C分析はcustomer(市場・顧客)、competitor(競合相手・競合品)、company(自社)を分析して、自社の方針を立てる枠組みです。

(注):4Pとは売れる仕組みを考える要点で、それはproduct,(製品・サービス)、price(価格)、promotion(販売促進活動),place(流通・販売経路)であり、この4つPを最適に組み合わせます。

(注):ガンチャートは、プロジェクト管理するため、それぞれの段階を作業単位まで区分けし、全体の作業の順序を示して、進捗状況を示すものです。

(注):神は細部に宿る=細かいところまで手を抜かず、妥協しないで仕上げると、完成度が高まることです。