採用活動

 2018年大卒の大企業採用は昨年と同じように6月から始まり、7月1日では80%近い内定者が出ていると報じられています。このような状況でも、人材が採用できなければ、事業を続けることはできないので、皆さん努力しています。

 A社長とB社長の例を書いてみます。

 

[高校新卒から大学新卒へ]

「A社長、今年も採用の季節ですが、どうでしょうか、皆さんの動きは」

「そうですね、この間の会議で話しが出ています。工場の方は、6月に高校の説明会があり、7月には高校の方から訪問があって、おそらく例年と同じようになる、と報告がありました」

 A社長の企業は近県に工場があって、ここ数年は同じ高校から採用を続けている実績があります。「しかし、高校説明会に出たところ、高校から”これからは分かりません”、と説明があったと採用担当は言っています。今までとは、状況が変わってくるとのことでしょうか・・・」

「それは、ご存知のように、日本全体で18歳人口が減ってきていることがあると思います」

 手元の資料をA社長に渡しながら、話を続けました。

「高校卒業者は2006年3月117万人でしたが、2015年3月107万人です。この10年で10万人減りました。高校卒業者の進路は、就職者が21万人から19万人となり、大学等進学は58万人前後とあまり変化しません。しかし、大学等への進学率は49.4%から54.6%へと上がってきています。専門学校進学は、就職者と同じような傾向です」

「高卒の就職者が減ってきていることがあって、高校の説明会で”これからは分かりません”とあったと言うことですかね」

「そうだと思います。これからは大卒や専門学校卒にも目を向けることになりますよ」

「そう言えば、この間の会議で”都内の大学を卒業するお子さんの親からお願いします”と工場から話しが出ていました。お子さんを手元に置きたい、との親心からでしょうかね」

「大学が都内にあるから都内の企業に就職するのか、それとも郷里に帰るのか、それは分かりませんよ。近県の工場の採用であっても、都内の大学に出向くことは必要ですね」

 A社長は、都内にある事業所の採用も本腰を入れる気になって、具体的にどう進めたらよいのか、と尋ねてきました。

「多くの企業が昔から行ってきたことですが、”従業員が出身校を訪ね、恩師や就職課にお願いする”ことは、もうすすめていますか」

「いや、未だ行ってはいません。そう言われれば、中途入社の従業員の中には大卒が多くいますので、母校の訪問を行うように言ってみますよ」

 このA社長の話にはチョッと驚きました。これから助言を続けなければ、と思いました。

 

[段階採用から”直接採用”へ]

 B社長の企業は、都内だけに事業所があります。都内高卒の求人倍率は5倍(注)を超えているので諦め、採用は主として大卒と専門学校等卒業者を対象にしています。大卒等にはそれなりの実績校があるので、学校訪問を今まで通り続けています。

「どうですか、今年の出足は、例年とかわりませんか、それとも違う点が出てきていますか」

「そうですね、社員が手分けして学校で説明会を行っていて、そんなに変わったと言う報告はないようですが、でも、面接に来られる学生があまりないのが、チョッと気になりますが」

「そうですか、こちらの活動は変えていないと言うことですか」

「もちろん、”従業員が出身校を訪ね、恩師や就職課にお願いする”ことは今年も行ってきていますよ。何か、あるのでしょかね」

「そうですね。今までのエントリ-から段階を踏んで採用する方式から、”直接採用”が今の学生の中で人気になっているようです。これは、まあ、学生が企業から採用の働きかけが来るのを待つと言うものですよ。今までのように学生が企業説明会に出かけるとは、逆ですね」

「そう言われみますと、社長仲間でそのような話しが出ていましたが。そんなに人気が出ているのでしょか」

 さすがです、B社長のアンテナにかかっていました。

「そうですね。これはSNSを活用するので、学生が採用担当などと直に連絡するので、本音や実情が共につかめるなど新しい点がありますよ」

「と、言うことは担当者の力がモノを言うことなのでしょか」

 B社長は、自身でもSNSを利用しているので、その長短をよくご存じのようです。20代のインターネット利用率は90%を超えています(注)。学生が情報を新聞など印刷媒体を通じて得ることは少なくなっています(注)。

「おっしゃられるとおりですよ、企業によっては採用する現場の従業員がSNSを通じて学生と話すこともしているようですよ、現場の本音が分かるということで」

「担当者の熱意が溢れていると、学生も引っ張られると言うことでしょうか」

「そうですね。それに、残業や休暇の取り具合などの質問がある、とある調査には出ていました」

「企業側としては、経営理念や事業内容の特長を説明したいと思っていますが、すれ違いがあると言うことでしょうか。企業が継続するには経営理念や事業内容は重要なことと思いますが…」

「もちろん、それはそれで当然で大切なことですが、それらはWebを見れば分かると言うことです。企業説明会でもSNSを通じてでも、また、学生と顔を会わせて話をする場合でも、学生が企業担当者の態度や応対の真摯さを見て、入社の判断材料にしている面がありますよ」

「そうですか。学生とあまり歳が離れていない社員が話したり、応対することが良いと言うことなのでしょうね」

 企業担当者の話し方や態度、姿勢は予行練習をして改善することは当然です。毎年の事だから、と惰性にならないように、学生とあまり年の離れていない従業員の感想などは参考になります、と話しました。

 

[2016年の出生数は97万人です]

 ここでは二つの企業の例をあげました。前者は省エネや省力化を進めてきた企業、後者はどちらかと言えば労働集約型の企業をとりあげました。前者は省エネから始め省力化へと進み、今では幾つかの工程を無人化する方針です。”人は人しかできないことを行う”を進めてきても、人材の強化は必要なので採用の強化を始めたところです。後者は、顧客の要望を丁寧に聞き取って対応するヒトが重要で、個々の顧客の事情をくみ込むので、標準化やマニュアル化を進めるには一定の限りがある事業です。人材の増強や教育訓練が企業を続けてゆくには重要なことで、その中身は企業によって異なります。企業にはそれぞれの特性はあり、企業にあった採用の仕方があると思います。

 一方、出生数は第一次ベビーブーム1949年270万人、第二次ベビーブーム1972年204万人、1984年149万人と150万人を切り、2016年には97万人と100万人を切りました(注)。これからは、求人競争が激しくなります。企業が学生から選ばれる時代がさらに深まってゆくのではないか、と思います。言い換えると、学生から見て魅力のある企業が選ばれることがより強まると思います。採用の技法も大事ですが、加えて、学生にとって働きやすさ、企業の強みや特性が将来にわたって魅力があることが基本になります。

中小企業診断士 窪田靖彦

(注)2017年2月7日発表NHK国民生活時間調査

(注)平成28年9月13日厚生労働省表発平成28年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」取りまとめ

(注)平成27年度版情報通信白書図表7-2-1-4 属性別インターネット利用率及び利用頻度

(注)平成29年6月2日厚生労働省発表人口動態統計