従業員を支援するのが、社長の役割

経営者の皆様に、経営に役に立つ事例をお届けします。

一つでも貴社の経営のヒントになることがあれば幸いです。

なぜ、お客様のご要望がつかめないのか

 若手の経営者の方々が集まる懇談会の席上のことです。室内装飾業S社長が「うちのコーディネータは、お客様のご要望をチャントつかめないで、このあいだは全部やり直しよ!」とぼやいていました。それを聞いていた美容サロン業F社長は、「施術中、ブッチョウ面のジュニア・スタイリストをバック・ルームに呼んで、どうしたの?と聞いたら、”あのお客様、言うことが変るのでイヤ”と。どうしてお客様のご要望がつかめないのかな!」とこれまたぼやきです。運輸業のG社長は、「うちのドライバーが”荷物はそこの奥にお願い”と言われたお客様の声を無視して、通路に置いてきてクレームだよ」とこれもぼやき。その後の懇談会では、”なぜ、お客様のご要望がつかめないのか”が話題の中心になりました。

お客様のどう心をつかむか

 わが国は、少子高齢化がすすみ人口減少時代を迎えているために、お客さまの数が減っており規模の大小を問わずどの業種もお客様の要望をどのようにつかむのかに苦労しています。さらに室内装飾サービス業界や美容サロン業界そして運輸業界はオーバー・ストア気味で、激しい競争が展開されています。

 美容サロン業は、お客様が店に入ってから、ご要望をお聞きして、お待ちいただき、そして施術して・・・料金をいただき、お見送りとなります。室内装飾サービス業や運送業の場合は、その間に現場での実作業が入ります。初めて来店されたお客様はどの場合でも、「どうなるのか」と期待と不安が交錯しています。結果として、お客様が感激されるのかあるいは期待を裏切られるのかは、従業員の考え、姿勢と動きのありようがお客様にどう映るかによります。お客様が期待していた以上のことがあれば満足されて、またご来店あるいはお友達をご紹介頂けると続きます。お友達のご紹介は、これ以上のない最高の結果です。

 

 「では、どうしたらよいのか」に話が移りました。飲食業M社長は、「競争相手の店に従業員を行かせて体験させている」といいます。これもよい案です。多店舗展開している飲食業では、二番手支店長が一番手支店を覆面で食事して、「なにがちがうのか」を体得しています。この方法は飲食業のように誰でも出入りができる業界には通用しますが、そのほかの運送業や室内装飾サービス業などには行うのはむずかしいとなりました。

従業員の意見を聞き出そう

 中小企業診断士は「お客様の要望をしっかりとつかめるためには、経営者は従業員が気持ちよく働けるようにしたったらどうでしょうか」と助言しました。従業員が勤めている会社に満足していれば、毎日元気よく明るく楽しく働きます。逆に従業員が会社に不満を持ったり、不安を感じている場合には、挨拶も型どおりとなり、お客様の要望を丁寧にお聞きすることなどはうわの空でどこかに飛んでいってしまいます。すると、このような従業員の気持ちはお客様に伝わります。そして、お客様は不愉快になり、ふたたび来店しません。

 ここで大切なことは、「従業員がどのように思っている」を経営者がとらえ、考えることです。そして、すぐさま手を打つことです。経営者は、従業員が一番気にしていることは、給与の高低ではないかと思う方が多いようです。確かに会社を選ぶ際には給与は最低必要な額以上ということは重視されます。しかし、会社を辞める時の理由は給与額ではないようです。理由となるのは、経営者、上司そして同僚との人間関係、しごとのやりがい等の問題がほとんどのようです。

 整理しますと、次のようになります。

従業員満足度が低い場合に生じる問題

① 仕事に対する従業員の意欲が低下する

② 従業員は自身のスキルを向上しようと思わず、むしろ次第に低下してしまう

③ 従業員の企業定着率が悪くなる

④ 部署・チーム内で意思疎通が悪くなり、チームワーク力が低下する

⑤ 企業理念や経営方針が組織に浸透しない

 このように従業員満足度が低い場合に考えられる顧客満足度への悪い影響

① 顧客へのサービスをより良くする力や提案力が低下してしまう

② 顧客へ提案するサービス内容や質が向上せずに停滞して、長い間では低下してしまう

③ 担当者の退職がつねに生じて、顧客に十分なサービスが提供できなくなる

④ 顧客への応対が担当者によってバラツキ、会社としてまとまりがなくなる

⑤ 会社としての姿勢が明確でなく、顧客が会社に不信感や不安感をもつ

 この結果、顧客はこのような会社を信頼しなくなり、業績不振が深まります。

従業員を助けるのが経営者の役割

 さて、”ブッチョウ面ジュニア・スタイリスト”事件は、経営者が本人、同僚そして店長と話し合ったところ「当日、担当スタイリストが欠勤で、代わりに手が空いていたジュニア・スタイリストが入った」ことが分かりました。このように担当欠勤の際は”受付がすぐに店長に報告し、店長がお客様のご意向をお聞きし、店長が対応を決める”ことにしました。また、その後担当スタイリストがジュニア・スタイリストを連れてお客様にご挨拶にお伺いしました。その後、ジュニア・スタイリストは同僚、上司、店長にかこまれて、元気よく働いています。従業員を孤立させてはならない事例です。

「顧客管理システム」の活用

 美容サロンで「顧客管理システム」を使えば、お客様がいつ来店され、当方の担当者は誰が担当し、どのようなサービスを受けられたか、お客様はその日はどこかにお出かけなるご予定があったのかなどを記録できます。お客様が再び来店された時には、「顧客管理システム」を見ることで今までのことが分かりますので、ジュニア・スタイリストを含めたスタイリストがお客様とお話するときには役に立ち、大いに助かります。お客様にとって「気持ちの良いサロンね!」「また、来ようかしら」と思われるように、システムの活用の仕方に工夫が要ります。例えば、システムから作った「ご来店ありがとうございます」レターでは、お客様は事務的な感じがしてしまいます。お客様に心が伝わるように「手書きレター」の例をあげながら、経営者は従業員と話し合うことで、従業員の気持ちを引き出して「そうか」と思うようになります。その結果、お客様から素晴らしい手書きレーターをいただいたスタイリストは飛ぶように喜び、日々仕事を楽しく行っています。

 

ITコーディネーター 窪田靖彦