代金回収は、最初が肝心だ

 多くの会社が懸命に努力している中で、A社長も同じようにされています。そして、やっと手に入れた売上げの中で利益を捻り出しています。そのような時、経営者の集まりでA社長から資金繰りについて話がに出ました。

「やっと、これはと思う企業から発注の問合せが来ました」

「それはよかったですね。こちらは中々うまく行かずに、まだまだですよ」

「そうですね、1年くらい話し合いに掛かりましたかね。でも、支払いが遅いと言うのか長くて検収があって、その後手形払いですよ」

「検収した後、手形払いですか、それは大変ですね」

「ウチも、大きな会社の支払いは手形で、同じようなものですよ」

「どうしたら、いいのですかね。手形払いなんて困りますよ。これから話し合いがあるのですが」

 

最初の取り決めは大事だ

 中小企業診断士の方を向いて言われましたので、話し始めました。

「前にもお話ししたと思いますが、売上代金を早く支払ってもらうようにするには、最初からそのようなことをお客様にお話しておくことですよ」

「そのような実例があるのでしょうか」

「警備保障会社の事例を話してみましょうか」

「そうですね。何かの参考になるかもしれませんので」

「まだ、警備保障と言う仕事が生まれてなかった時のことです。起業する前に"サービス契約料は3ケ月前受け、毎月料金も前受け、知合いやコネは一切頼らない”ことを社内で決めたのです」

「それは思いきったことですね。それで、どうなったのでしょうか」

「この代金受取とコネを使わないことで、最初は受注に苦労したそうです」

「ウーン、そうですか、そうでしょうね」

「しかし、東京五輪があったり、思わぬ追い風が吹いて受注が増えたそうです」

「ザ・ガードマン、とか言ったテレビがありましたね

「そして、売上が伸びてきても、人件費等の費用の支払より早く資金が流れ込むので資金の足りなくなったことはなかったそうです。増加運転資金と言って、売上が増えると共に運転資金がより多く必要にはならないで、今日に至っているそうです」

 

米国系企業の代金回収条件は早い

「警備保障会社の話し以外にそのような会社はあるのでしょうか」

「日本にも進出している世界的なIT企業は、”機械のご購入条件”と言う支払条件に”機械の据付完了日の翌日から10日間を検収期間とし、お客様は、この検収期間中に検収を行います”と明示しています。そして、”お客様は、当社据付機械については請求書の日付から45日以内にお支払いください”とあります」

「そうですか、日本の商習慣と大分ちがいますね」

「本当にそのとおりです」

「それにしても、ずいぶんと強気な商売をしているのですね」

「その通りです。それだけ、販売している機械は他に無い特徴があることを打ち出しているのです。それと、彼等からすれば日本市場は新市場ですから、最初から所定の代金回収条件を持ち込んだとも言えます。」

 

では、どうしたらよいのか

「事例は分かりました。では、どうすれば良いのでしょうか」

「これも前にもお話ししたと思いますが、ひとつは新しい製品の販売を始める前に、支払条件を今より早い回収に決めることです」

「そうですね、新しい製品だから今までの製品より優れていることをキッカケにすると言うことだったですね」

「そうです。新しい製品を開発する企画にこのような思いを織り込むことも必要なことです。そう言った思いがあれば、どのような製品を開発したら良いのか、どうしたら良いのかを考えますから」

「漫然と開発はできないよ、と言うことでしょうかね」

「そうです。二つ目は新しい市場や分野に出てゆく前に早い支払条件で行こうと、今より早い回収に決めることです。日本に進出した世界的なIT企業の逆張りですね」

「新しい市場や分野と言うのは、下請加工業から完成品製造業になることも当たりますよね。この場合も、同じですかね」

「基本は同じです。先ほども話しましたが、製造する完成品の何か新しいところがあったり、今までないものなのか、それ次第だ、と考えてください」

「他には、何か方法がありませんかね」

 

実情を説明し、成功した事例

 すると、今まで話を聞いていたB社長が口を開きました。

「いや、これは知人が実際に行った例です。彼の会社はソフトウェア開発業で、やっと大手企業から引合があって喜んだのですが、ソフトは償却資産、すなわち固定資産なので90日手形支払いと言われたそうです」

「そりゃ、大変ですね、90日手形支払いとは大変ですな」

「確かに税法ではソフトウェアは償却資産となっていますが、ソフトウェア開発業の費用は大半が人件費(注)と言うことを説明したそうです」

「それで、どうなりましたか、興味がありますね」

「決算資料を見せて、説明したとのことです。資料自体は渡さないで見せただけです。相手は経理担当者が出てきたそうで、話しは長く掛かったそうですが、決着したそうです」

 この話は、参考になります。税法では償却資産で固定資産だから、支払は機械や装置と同じ社内基準で90日手形支払としていた企業を説得した事例です。

 ソフトウェアは償却資産だから固定資産、固定資産の支払いは手形などと決めている企業が多く見ることができます。

 ソフトウェア開発費用の大半が人件費だから、支払手形払いは適切ではない、との説明は説得力があります。しかも、大手企業から引合があった時に、すなわち、取引を始める前に「支払手形は受け入れられない」ことを申し入れています。この話を聞いていたA社長は、「こっちも同じように話してみよう、ダメ元なんだから」と言って、B社長にその知人を紹介していただくようお願いしていました。A社長の結果がどうなるのか、皆さん関心を持っています。

 中小企業診断士も関心を持っています。

中小企業診断士 窪田 靖彦

(注):受託開発ソフトウェア開発業売上高人件費率53.2%

(TKC経営指標:平成29年3月決算から平成29年5月決算)