あるNPOの会合

経営にも役立つNPOのお話し

 NPOのオレオレ詐欺の対策を考える会合に「何かあれば、どうぞ意見を言って下さい」ということで出席しました。集まったのは10人に満たない幹事の方々ですが、前職は会社勤めがほとんどで営業、資材・購買、製造、生産技術、経理、労務管理、企画など経験されていました。NPO代表は、ITに長けた元製造の男性の方で、幹事が合宿までしてパソコンの使い方を訓練しており、全員がパソコンを駆使していました。会合は、パソコンをプロジェクターにつないで皆が同じ画面を見るので、紙資料はありませんでした。

どう、対象者を絞ったのか

 NHKテレビなどが放映した事例を参考にした意見が多く出て、それへの対策がいろいろと出てきました。そこで、「なぜ、高齢者が狙われるのでしょうか」と質問してみました。「高齢者は、騙しやすいのではないか」、「高齢者は一人でいることが多く、たまの電話には話したくなるのではないか」など意見が出て来ました。小生からNPO代表に「直近の家計調査を検索してみて下さい」とお願いし、次に「次は、年齢ごとの世帯別預貯金額から負債金額を差引いた純資産額を出してください」と言うと、間もなく全世帯差し引き純資産額は1240万円、高齢者差し引き純資産額は2215万円と出てきました。

 「これで高齢者の純資産は多いことがわかり、どうして高齢者層が狙われるのかは数値で裏づけが取れたと思います」と話すと、元営業の男性が「お客様を選ぶ際に3C分析を使ったが、それと同じだ」と言われて、頷いていました。飛込み訪問や電話営業より、顧客候補を絞って接触するのが効率的だからです。オレオレ犯人がデータを駆使しているのではないかと、思うほどです。

では、その結果は

 では、「次は、オレオレ被害者はどのようなことになっているのか、これは警視庁のホームページに資料がありますので、開けてみて下さい」とNPO代表にお願いしました。これも直ぐに出てきました。「全体の被害者は、女性が70%台、残りが男性です。うち、70歳以上の女性が40%台で、70歳以上の男性が14%台だから、男女あわせて70歳以上が54%を超えることになりますよ」と言っています。元企画の女性の方が「これで、高齢者に絞った上で電話し、その活動の結果は高齢者が多くなっている、見事なものですね」と感心しています。

 こうなっているに違いないから、こうすれば良い、そしてこうなるはずだ、結果はそうなったのかと言うことです。仮説・実行・結果・検証の環です。

どこに、どのくらい

 元購買の女性からは「原因と結果の関係がよく取れているのは分ったが、どこに高齢者が居るのかはどうやってつかんだのだろうかしら」と質問が出てきました。さすがです、具体的なことに関心がある質問です。こちらから「みなさん、住民基本台帳をご存知だと思いますが、それに市区町村別の年齢別住民数が出てきます」と言いますと、NPO代表が台帳を開けました。住民基本台帳によると、年齢が5歳刻みで性別に人口が出てました。たとえば、千代田区の70歳以上女性は4,547人、男性は2,888人と言う具合です。むろんのこと、他の区も出ており、道府県も市町村別につかめるので、高齢者が多く住んでいる地区は、特定できると言うことです。さらに、区内で言えば出張所毎に丁目別の1歳刻みでも出ています。元購買は、「こんなに丁目別に年齢と性別の人数を誰でも知ることができるなんて、驚きましたね」と言っています。

では、対応はどうするのか

 元経理の男性は、「では、こちらとしてはどうすればいいのかな」と言いながら、「こちらもこのデータを使って、例えば、高齢者が多く住んでいる区の出張所に絞って、話し合い会を行ったらどうかな」と案を出しています。元労務管理の女性は、「そうですね、こちらからも”電話が掛かってきた事例や親戚が被害を受けた話”をしてみたら、説明会に出て来られた方々もそうなのね、となるのではないでしょうか」、そして「すすめ方は、一方的に話すのではなく、お互いに話し合うことが共感されると思います」と同じ目線で話したら、皆さんがお互い理解できるのではないかと、今までの労務での経験に基づいて、こちらの姿勢について意見を出します。経験豊かな方々のご意見です。

 NPOの方々は、年齢にかかわらず、柔らかい考えをお持ちです。

公的資料やデータを活用

 このように公的にいろいろな資料やデータがe-statから出されているので、NPOではこれらを活用することを助言しました。同じように経営でも、このような公的資料やデータを活用して、役立つ場面があると思います。例えば、半径500メートルの商圏内にどのような人々が住まっているか、その内、お客様と思われる人々はどのくらいなのか、どの程度お買い求めているのか、などです。

 経営の目的にピッタリとした資料やデータを見つけるには、それなりの努力が要ると思いますが、参考にしてください。

 まとめとして、経営でも役立つNPOの知恵は次のとおりです。

①紙資料を使わず、パソコンとプロジェクターを活用する

②3C分析を活用し、顧客候補を絞る

仮説・実行・結果・検証の環を活用する

④目線は、相手側に合わせる


注は、次を参照下さい。

3C分析:顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の観点から市場環境を分析し、経営の課題を引き出す分析方法の一つ。

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中小企業診断士 窪田 靖彦